『萌え絵で巡る! クトゥルー世界の歩き方』発売

『萌え萌えクトゥルー神話事典』の第2弾的な事典『萌え絵で巡る! クトゥルー世界の歩き方』が12月14日に発売されるとのこと。(って、日本ではもう発売日になってますね……) 編者 (監修) は、『萌えクト』とおなじ森瀬繚さん。今回は、アーカムインスマスといったクトゥルー神話の「聖地」のほか、クトゥルー神話系の作品に登場する魔道書や禁書を萌え絵とともに解説する、という趣向のようです。(土地のほうは、アーカムインスマス、ルルイエのような有名どころだけでなく、かなりマイナーなものも入っているようですね。)


『今日の早川さん』や『異形たちによると世界は…』の作者COCOさんもイラスト参加されているとのこと。『萌えクト』よりはレジに持っていきやすそうなカバーですし (?)、書棚に一冊、いかがでしょうか。


あと実はこの本……いや、まあいいや。


萌え絵で巡る! クトゥルー世界の歩き方

萌え絵で巡る! クトゥルー世界の歩き方

萌え萌えクトゥルー神話事典

萌え萌えクトゥルー神話事典

お嬢さまと僕

おもいついたときに書いてはtwitterに放流している短文ネタ。あまりまとめて発表するほどの価値や量があるものでもないのですが、ほっぽっておくと回収不能になってしまいそうなのでとりあえず。


*****



「おや、お嬢さま、新しいカメラを買われたのですか」
「うむ。これで儂の写真を撮ってくれ。可愛く頼むぞ」
「ですが、お嬢さま。お嬢さまは一眼レフのカメラには写ることが……ああ、なるほど!」
「そのとおり。ミラーレス一眼じゃよ。いい時代になったものじゃ」


血液型
「お主、血液型は何型じゃ?」
「O型ですが……お嬢さまも血液型占いを信じておられたりされるのですか」
「そうではない。先日、古くからの友人と議論になってな。それでこんど、飲み比べをしてみることになったんじゃ。果たして血液型と体型は、どちらが血の味により影響するのか、というな……」


台風の夜
「ひどい雨ですね、お嬢さま。道路が川のよう……え? 抱っこ、ですか? 突然どうしたんですか」
「うるさい、道を渡るだけじゃ。早くしろ」
「ふつうに渡ればいいのでは……」
「いいから。絶対に落とすでないぞ」
「とても浅いですよ? つま先が濡れるくらい……」
「ダメなものはダメなんじゃ」


じすい
「『自炊代行業』というのはどういうことじゃ? ただの家政婦ではないか」
「いいえ、お嬢さま。その場合の『自炊』の『炊』は『吸い』の音訳でして」
「ふむ。わざわざ犠牲者の家まで出かけなくとも誰かが代わりに血を取ってきてくれるということか。それは便利じゃな」
「いえ、そういう意味でも……」


「『あなたが吸引した血液は、個人で楽しむなどのほかは、提供者に無断で使用できません』……お嬢さま、これは?」
「うむ、どうやら儂らと人間とのあいだには昔からそのような取り決めがあるようなのじゃ」
「つまり吸血を代行するような商売はできないと?」
「いいアイデアとおもったのじゃがのう」


ミラーレス
「おはようございます、お嬢さま。……ひどい寝グセですよ。お直ししましょうか」
「うむ、頼む」
「このときだけは素直ですね」
「しかたがなかろう、見えないのじゃから」
「鏡が使えないのは不便でございますね。……あ」
「どうした?」
「いえ、何でも……」
「おかしな奴じゃ」


「お嬢さま、おは……どうなさいました、怖い顔で」
「子供じみた悪戯じゃのう。顔に落書きとは」
「どうして……」
「寝たふりで様子を見ていたのじゃ。すぐ消せ」
「は、はい」
「待て。何と書いた?」
「秘密です」
「どうせ悪口を書いたのじゃろ。下女を探して読ませるからよい」
「え、あっ、ちょっ……」


「おい、お主」
「あ、お嬢さま、おはようございます」
「儂の頬に何か書いてあるじゃろ。ここじゃ。読んでくれ」
「えっ、えと、そのあの……」
「どうせ悪口雑言が書いてあるのじゃろ。わかっておる。怒らないから書いてあるとおりに読め」
「そのう……」
「何を赤くなっておるのじゃ。変な奴じゃのう」


家計
「お嬢さま、また新しい使用人候補を連れてこられたので」
「うむ。可愛い娘じゃろ」
「これ以上、当家に人を置く余裕はないと何度も申し上げたはずですが」
「地下にまだ空き部屋があるではないか」
「それは構わないのですが……」
「なんじゃ」
「これ以上、一日に血を吸われる量が増えると私の体が……」


選考基準
「新しい使用人に話を聞いたのですが」
「うむ」
「地下営業の売春宿で働かされていたそうですね」
「それがどうかしたか?」
「いえ。ただ、当家の使用人には似たような身の上の娘が多いな、と」
「知らなかった」
「お嬢さまは心優しくていらっしゃる」
「バカなことを。可愛いから拾ってきただけじゃ」


終末論
「人類が明日で滅びる? ふむ。だとすると、今夜が最後の食事になるな。……ああ、最後になるのなら、お主の血を吸ってもいいのか」
「お嬢さま……」
「なんじゃ、変な声を出して。冗談に決まっておるじゃろ。だいいち、滅びる滅びると騒いでおいて、一度も滅びたためしがないではないか」


ハロウィン
「準備できた。出かけてくるぞ」
「お嬢さま、その服は……」
「今夜はハロウィンじゃろ?」
「はい、そうですが……」
「だったら、この格好でも仮装だとおもって誰も気にしないはずじゃ。普段は人に紛れる服装をしておるのだから、たまにはいいじゃろう」
「しかし、ヴァン・ヘルシングというのは……」


おなかすいた
「ふふふ。今宵も血に飢えた吸血鬼が、町を恐怖におとしいれるのじゃ」
「お言葉ですが、お嬢さま。『血に飢えた殺人鬼』であれば異常で恐ろしいかもしれませんが『血に飢えた吸血鬼』は『おなかがすいた』という意味にしかならないのでは……」
「う、うるさいな。人の妄想の揚げ足取りをするでない!」


若者の○○離れ
「若い吸血鬼の吸血離れが進んでいるそうじゃな」
「吸血離れ、でございますか」
「うむ。ハンバーガーや甘い菓子のほうが美味いと、血も吸わずにそんなものばかり食べるそうじゃ。嘆かわしい」
「……お嬢さま、お口の横に生クリームが」
「こ、これは血を吸った帰りに、間食として食べたのじゃからなっ」


「吸血離れの本当の理由は食の変化ではないのじゃろうな。お主は知らぬだろうが、血を吸うものと吸われるものは、たとえ一夜限りでも信じあう関係にならなくてはならぬ。その関係を築きたがらぬのじゃ」
「……実はお嬢さま、貯蔵庫の葡萄酒がまた一本、なくなっておりまして」
「なぜいまその話をする?」


血のりノリ
「うーむ、今日は血のりノリが悪い。やはり寝不足は肌に出るな」
「お嬢さま、お急ぎを。ハンターはもう敷地内に入っております」
「しかし彼らが期待する『恐ろしい吸血鬼』の姿で現れないと失礼じゃろ……これでどうじゃ?」
「『口から垂れた血』をもっと太くしたほうが遠目にもわかりやすいかと……」


2月14日はヴァのつく日
「……ううむ、上手くいかぬな」
「お嬢さま、なにをしておられるのですか」
「ば、ば、ば、ヴァン・ヘルシングごっこをしておったんじゃ。いままさに、このハートの中心に白木の杭を打ち込まんと……」
「……なぜ台所でそのような。しかも手のそれは、チョコペンではございませんか」
「う、うるさい!」


銀の砂糖菓子の弾丸
「いかがなされました!? いま、爆発のような音が……お嬢さま!!」
「……お主か。儂はもう駄目かもしれぬ。不意を討たれて銀の弾丸を……」
「そんな! ……ん? ……お嬢さま、お気をたしかに。爆発したのはお嬢さまがオーブンに入れたケーキではないかと。この銀の玉はアラザンでございます」

そうだ、京都いってたんだった


もう撮影してから2ヶ月ほど経ち、季節感もなにもあったものでもなくなってしまったのですが、そういえば祇園祭の宵々々山に行ったんでした。


日の暮れるまえは、鉾の置いてある道も、まだ日常の一部といった雰囲気ですが……


暗くなるにつれて、お祭りの人出も増えてきて……


夜店があったり



山の上ではお囃子の演奏がはじまったり


そうして夜は更けていくのでした。

萌えよ! クトゥルー

以前、このブログ上でも紹介したCOCOさんのクトゥルー本『異形たちによると世界は…』が7月22日に発売になりました。今回、実はフライングゲットする機会を (しかも作者様の生邪神……もとい、生サイン入りで) いただいていたのですが、太平洋を横断したりしているうちに、感想を書くのがおそくなってしまいました。申しわけないです/出版おめでとうございます/ありがとうございました。

異形たちによると世界は…

異形たちによると世界は…


さて、内容については他所でもくわしくレビューされている (こちらこちらこちらこちら) ので、あらためて書くこともないような気もするのですけれども、本書にはルルイエに住むクトゥルーさまを筆頭としたちび邪神さまたちのドタバタを描いた4コマ漫画に加え、ショートストーリー+漫画という形式の短編が8編、収録されています。


で、メインのちびクトゥルーさまたちのかわいさもさることながら、挿入されている短編も、しっかり怖い、エロい、グロい、と、一部で評判をとっているようです。(エロいとグロいはそうでもないか……。ちなみに、エロはどぎつくないですし、グロはほんのちょっとですので、そのあたり苦手というかたもご心配なく。)


ところで、創始者とされるH.P.ラブクラフトの作品群をはじめとして、いわゆる「クトゥルー神話」サイクルの作品群には、「異形」であるものの視点から書かれたものが少ないようにおもえます。(もっとも、これは主観的な感想にすぎないですので、そうではない、という反証があればご指摘いただけると幸いです。あと、『故アーサー・ジャーミン卿とその家系に関する事実』とか『インスマスを覆う影』とかは、例外と言えなくもないかもしれません。) 「異形のものたち」は、あくまでも語り手が遭遇する恐怖の対象として登場し、「異形」である主体の、「異形」であるゆえの苦悩や悲哀 (や喜びや楽しみ) が描かれることはあまりないような気がするのです。まあ、怪物ホラーというジャンルそのものがそんなもんである、と言ってしまえばそうなのかもしれませんが、でも、『ダニッチの怪』のウィルバー・ウェイトリイは自分の生い立ちと運命について葛藤したことはなかったんだろうか? とか、『ピックマンのモデル』のリチャード・ピックマンはどんな日常生活を送っていたんだろう? とか、そんな空想を遊ばせてみるのも楽しいことですよね。(でもない?)


そのような「『異形』である主体の視点」で書かれた話が多く収録されているのが、この作品の面白いところなのではないか、と、私は勝手におもっていたりします *1 。(4コマ漫画パートも、邪神たちの世界を邪神たちの視点から描いたもの、と言うこともできそうですし。) そういう意味で、ブログ掲載時の『異形の群れ』からリネームされた『異形たちによると世界は…』(The World According to the Damned) というタイトルは、本書にぴったりのものだったのではないか、と個人的にはおもうのです。(さすが、作者ご自身も名状しがたき御姿の持ち……いえ、なんでもありません。)


ちなみに、COCOさんご本人も言っておられましたが、ショートストーリーのほうは、本書に収録されたのはブログで発表されたもののうちの一部です。収録されなかった作品にも面白いものがいくつもあるので (個人的には「使命を果たさないといけないんだけど家に引きこもってしまっているヨグ=ソトースの落とし子」のエピソードが好きだったり)、ぜひ、いつか、本のかたちで読んでみたい! とおもうのですが、どうでしょう。ほかの人のお話 (もちろんクトゥルーもので) にCOCOさんが絵/漫画をつけたものも面白そう、などともおもったり……。まあ、ただのおもいつきなのですが――。



ついでにちょこっとFurther Reading:

邪神さまたちについては作中でも紹介があるのでクトゥルー初心者にも安心してオススメできる本書ですが、書かれていない、説明されていない部分について、もっと知りたい! というむきには、たとえばこのような関連作品はいかがでしょうか。


短編『供物』(p.17-) の語り手の女性があのあとどうなったのか、ほんとうに幸せに暮らしたのか、気になる……というかたは――ラブクラフトの原作を漫画化した『インスマウスの影』などどうでしょう。

インスマウスの影 (クラッシックCOMIC)

インスマウスの影 (クラッシックCOMIC)


そして、さらに興味があったら、うちの過去日記のまとめ (http://d.hatena.ne.jp/asahi-arkham/20070903/1233568319) も読んでいただけると嬉しいなー、などと、こっそり言ってみたり。


それから、なんでクトさまの目覚まし時計は「テケリ・リ」と鳴るの? とか、p.77-あたりでクトさまたちがペンギンを買いに行く「狂気の山脈」ってどこ? というあたりが気になるかたは、このあたりを……。本当にこれが「参考」になるのかは謎ですが……。

狂気の山脈 (クラッシックCOMIC)

狂気の山脈 (クラッシックCOMIC)

うちのメイドは不定形 (スマッシュ文庫)

うちのメイドは不定形 (スマッシュ文庫)


そうそう、このエントリのタイトル『萌えよ! クトゥルー』は、『異形たちによると〜』のオビの背部分の宣伝文句を使わせていただきました。なんかインパクトがあったので。

*1:いちおう、自分でそんな視点から書いてみたものがパブーで公開中のこれですが、出来としてはかなり残念なことになっているので、ぜひ読んでください、とはとても言えません。

今日のアーカム

てんき: はれ。最低気温64F、最高気温87F。


明日は90F超の予報が出ています。(摂氏では30度+) ほかの時期は東京や大阪とくらべると涼しかったり寒かったりする当地ですが、この季節だけは梅雨のような雨期もないですし、ひとあし先に暑くなるようです。

わがちちよ

Twitterではすでに告知しましたが、半年ぐらい放置していた『もし高校図書委員会の副委員長がH.P.ラブクラフトの「文学における超自然の恐怖」を読んだら』を更新しました。新しい (オチなし意味なし) エピソード「わがちちよ」の追加にくわえて、既発表ぶんの話にも加筆、修正をおこなっています。閲覧、ダウンロードはこちらから


ところで、この夏 (こちらの学年は5月で終わるので、学期的にはもう夏ということになります) から、私自身、大学図書館でアルバイト的な仕事をすることになりました。『もし高校図書委員会の〜』の第1話で副委員長がやっていたのとおなじ仕事をやったりしています。この経験が作品に反映される……ようなことはあんまりないような気がしますけれども (笑)。