萌えよ! クトゥルー

以前、このブログ上でも紹介したCOCOさんのクトゥルー本『異形たちによると世界は…』が7月22日に発売になりました。今回、実はフライングゲットする機会を (しかも作者様の生邪神……もとい、生サイン入りで) いただいていたのですが、太平洋を横断したりしているうちに、感想を書くのがおそくなってしまいました。申しわけないです/出版おめでとうございます/ありがとうございました。

異形たちによると世界は…

異形たちによると世界は…


さて、内容については他所でもくわしくレビューされている (こちらこちらこちらこちら) ので、あらためて書くこともないような気もするのですけれども、本書にはルルイエに住むクトゥルーさまを筆頭としたちび邪神さまたちのドタバタを描いた4コマ漫画に加え、ショートストーリー+漫画という形式の短編が8編、収録されています。


で、メインのちびクトゥルーさまたちのかわいさもさることながら、挿入されている短編も、しっかり怖い、エロい、グロい、と、一部で評判をとっているようです。(エロいとグロいはそうでもないか……。ちなみに、エロはどぎつくないですし、グロはほんのちょっとですので、そのあたり苦手というかたもご心配なく。)


ところで、創始者とされるH.P.ラブクラフトの作品群をはじめとして、いわゆる「クトゥルー神話」サイクルの作品群には、「異形」であるものの視点から書かれたものが少ないようにおもえます。(もっとも、これは主観的な感想にすぎないですので、そうではない、という反証があればご指摘いただけると幸いです。あと、『故アーサー・ジャーミン卿とその家系に関する事実』とか『インスマスを覆う影』とかは、例外と言えなくもないかもしれません。) 「異形のものたち」は、あくまでも語り手が遭遇する恐怖の対象として登場し、「異形」である主体の、「異形」であるゆえの苦悩や悲哀 (や喜びや楽しみ) が描かれることはあまりないような気がするのです。まあ、怪物ホラーというジャンルそのものがそんなもんである、と言ってしまえばそうなのかもしれませんが、でも、『ダニッチの怪』のウィルバー・ウェイトリイは自分の生い立ちと運命について葛藤したことはなかったんだろうか? とか、『ピックマンのモデル』のリチャード・ピックマンはどんな日常生活を送っていたんだろう? とか、そんな空想を遊ばせてみるのも楽しいことですよね。(でもない?)


そのような「『異形』である主体の視点」で書かれた話が多く収録されているのが、この作品の面白いところなのではないか、と、私は勝手におもっていたりします *1 。(4コマ漫画パートも、邪神たちの世界を邪神たちの視点から描いたもの、と言うこともできそうですし。) そういう意味で、ブログ掲載時の『異形の群れ』からリネームされた『異形たちによると世界は…』(The World According to the Damned) というタイトルは、本書にぴったりのものだったのではないか、と個人的にはおもうのです。(さすが、作者ご自身も名状しがたき御姿の持ち……いえ、なんでもありません。)


ちなみに、COCOさんご本人も言っておられましたが、ショートストーリーのほうは、本書に収録されたのはブログで発表されたもののうちの一部です。収録されなかった作品にも面白いものがいくつもあるので (個人的には「使命を果たさないといけないんだけど家に引きこもってしまっているヨグ=ソトースの落とし子」のエピソードが好きだったり)、ぜひ、いつか、本のかたちで読んでみたい! とおもうのですが、どうでしょう。ほかの人のお話 (もちろんクトゥルーもので) にCOCOさんが絵/漫画をつけたものも面白そう、などともおもったり……。まあ、ただのおもいつきなのですが――。



ついでにちょこっとFurther Reading:

邪神さまたちについては作中でも紹介があるのでクトゥルー初心者にも安心してオススメできる本書ですが、書かれていない、説明されていない部分について、もっと知りたい! というむきには、たとえばこのような関連作品はいかがでしょうか。


短編『供物』(p.17-) の語り手の女性があのあとどうなったのか、ほんとうに幸せに暮らしたのか、気になる……というかたは――ラブクラフトの原作を漫画化した『インスマウスの影』などどうでしょう。

インスマウスの影 (クラッシックCOMIC)

インスマウスの影 (クラッシックCOMIC)


そして、さらに興味があったら、うちの過去日記のまとめ (http://d.hatena.ne.jp/asahi-arkham/20070903/1233568319) も読んでいただけると嬉しいなー、などと、こっそり言ってみたり。


それから、なんでクトさまの目覚まし時計は「テケリ・リ」と鳴るの? とか、p.77-あたりでクトさまたちがペンギンを買いに行く「狂気の山脈」ってどこ? というあたりが気になるかたは、このあたりを……。本当にこれが「参考」になるのかは謎ですが……。

狂気の山脈 (クラッシックCOMIC)

狂気の山脈 (クラッシックCOMIC)

うちのメイドは不定形 (スマッシュ文庫)

うちのメイドは不定形 (スマッシュ文庫)


そうそう、このエントリのタイトル『萌えよ! クトゥルー』は、『異形たちによると〜』のオビの背部分の宣伝文句を使わせていただきました。なんかインパクトがあったので。

*1:いちおう、自分でそんな視点から書いてみたものがパブーで公開中のこれですが、出来としてはかなり残念なことになっているので、ぜひ読んでください、とはとても言えません。