お嬢さまと僕

おもいついたときに書いてはtwitterに放流している短文ネタ。あまりまとめて発表するほどの価値や量があるものでもないのですが、ほっぽっておくと回収不能になってしまいそうなのでとりあえず。


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「おや、お嬢さま、新しいカメラを買われたのですか」
「うむ。これで儂の写真を撮ってくれ。可愛く頼むぞ」
「ですが、お嬢さま。お嬢さまは一眼レフのカメラには写ることが……ああ、なるほど!」
「そのとおり。ミラーレス一眼じゃよ。いい時代になったものじゃ」


血液型
「お主、血液型は何型じゃ?」
「O型ですが……お嬢さまも血液型占いを信じておられたりされるのですか」
「そうではない。先日、古くからの友人と議論になってな。それでこんど、飲み比べをしてみることになったんじゃ。果たして血液型と体型は、どちらが血の味により影響するのか、というな……」


台風の夜
「ひどい雨ですね、お嬢さま。道路が川のよう……え? 抱っこ、ですか? 突然どうしたんですか」
「うるさい、道を渡るだけじゃ。早くしろ」
「ふつうに渡ればいいのでは……」
「いいから。絶対に落とすでないぞ」
「とても浅いですよ? つま先が濡れるくらい……」
「ダメなものはダメなんじゃ」


じすい
「『自炊代行業』というのはどういうことじゃ? ただの家政婦ではないか」
「いいえ、お嬢さま。その場合の『自炊』の『炊』は『吸い』の音訳でして」
「ふむ。わざわざ犠牲者の家まで出かけなくとも誰かが代わりに血を取ってきてくれるということか。それは便利じゃな」
「いえ、そういう意味でも……」


「『あなたが吸引した血液は、個人で楽しむなどのほかは、提供者に無断で使用できません』……お嬢さま、これは?」
「うむ、どうやら儂らと人間とのあいだには昔からそのような取り決めがあるようなのじゃ」
「つまり吸血を代行するような商売はできないと?」
「いいアイデアとおもったのじゃがのう」


ミラーレス
「おはようございます、お嬢さま。……ひどい寝グセですよ。お直ししましょうか」
「うむ、頼む」
「このときだけは素直ですね」
「しかたがなかろう、見えないのじゃから」
「鏡が使えないのは不便でございますね。……あ」
「どうした?」
「いえ、何でも……」
「おかしな奴じゃ」


「お嬢さま、おは……どうなさいました、怖い顔で」
「子供じみた悪戯じゃのう。顔に落書きとは」
「どうして……」
「寝たふりで様子を見ていたのじゃ。すぐ消せ」
「は、はい」
「待て。何と書いた?」
「秘密です」
「どうせ悪口を書いたのじゃろ。下女を探して読ませるからよい」
「え、あっ、ちょっ……」


「おい、お主」
「あ、お嬢さま、おはようございます」
「儂の頬に何か書いてあるじゃろ。ここじゃ。読んでくれ」
「えっ、えと、そのあの……」
「どうせ悪口雑言が書いてあるのじゃろ。わかっておる。怒らないから書いてあるとおりに読め」
「そのう……」
「何を赤くなっておるのじゃ。変な奴じゃのう」


家計
「お嬢さま、また新しい使用人候補を連れてこられたので」
「うむ。可愛い娘じゃろ」
「これ以上、当家に人を置く余裕はないと何度も申し上げたはずですが」
「地下にまだ空き部屋があるではないか」
「それは構わないのですが……」
「なんじゃ」
「これ以上、一日に血を吸われる量が増えると私の体が……」


選考基準
「新しい使用人に話を聞いたのですが」
「うむ」
「地下営業の売春宿で働かされていたそうですね」
「それがどうかしたか?」
「いえ。ただ、当家の使用人には似たような身の上の娘が多いな、と」
「知らなかった」
「お嬢さまは心優しくていらっしゃる」
「バカなことを。可愛いから拾ってきただけじゃ」


終末論
「人類が明日で滅びる? ふむ。だとすると、今夜が最後の食事になるな。……ああ、最後になるのなら、お主の血を吸ってもいいのか」
「お嬢さま……」
「なんじゃ、変な声を出して。冗談に決まっておるじゃろ。だいいち、滅びる滅びると騒いでおいて、一度も滅びたためしがないではないか」


ハロウィン
「準備できた。出かけてくるぞ」
「お嬢さま、その服は……」
「今夜はハロウィンじゃろ?」
「はい、そうですが……」
「だったら、この格好でも仮装だとおもって誰も気にしないはずじゃ。普段は人に紛れる服装をしておるのだから、たまにはいいじゃろう」
「しかし、ヴァン・ヘルシングというのは……」


おなかすいた
「ふふふ。今宵も血に飢えた吸血鬼が、町を恐怖におとしいれるのじゃ」
「お言葉ですが、お嬢さま。『血に飢えた殺人鬼』であれば異常で恐ろしいかもしれませんが『血に飢えた吸血鬼』は『おなかがすいた』という意味にしかならないのでは……」
「う、うるさいな。人の妄想の揚げ足取りをするでない!」


若者の○○離れ
「若い吸血鬼の吸血離れが進んでいるそうじゃな」
「吸血離れ、でございますか」
「うむ。ハンバーガーや甘い菓子のほうが美味いと、血も吸わずにそんなものばかり食べるそうじゃ。嘆かわしい」
「……お嬢さま、お口の横に生クリームが」
「こ、これは血を吸った帰りに、間食として食べたのじゃからなっ」


「吸血離れの本当の理由は食の変化ではないのじゃろうな。お主は知らぬだろうが、血を吸うものと吸われるものは、たとえ一夜限りでも信じあう関係にならなくてはならぬ。その関係を築きたがらぬのじゃ」
「……実はお嬢さま、貯蔵庫の葡萄酒がまた一本、なくなっておりまして」
「なぜいまその話をする?」


血のりノリ
「うーむ、今日は血のりノリが悪い。やはり寝不足は肌に出るな」
「お嬢さま、お急ぎを。ハンターはもう敷地内に入っております」
「しかし彼らが期待する『恐ろしい吸血鬼』の姿で現れないと失礼じゃろ……これでどうじゃ?」
「『口から垂れた血』をもっと太くしたほうが遠目にもわかりやすいかと……」


2月14日はヴァのつく日
「……ううむ、上手くいかぬな」
「お嬢さま、なにをしておられるのですか」
「ば、ば、ば、ヴァン・ヘルシングごっこをしておったんじゃ。いままさに、このハートの中心に白木の杭を打ち込まんと……」
「……なぜ台所でそのような。しかも手のそれは、チョコペンではございませんか」
「う、うるさい!」


銀の砂糖菓子の弾丸
「いかがなされました!? いま、爆発のような音が……お嬢さま!!」
「……お主か。儂はもう駄目かもしれぬ。不意を討たれて銀の弾丸を……」
「そんな! ……ん? ……お嬢さま、お気をたしかに。爆発したのはお嬢さまがオーブンに入れたケーキではないかと。この銀の玉はアラザンでございます」