11月15日、土曜日。(その9)
リュックサックを背負って、ふたつある窓のうちの、ひとつの前に立つ。
カーテンをかきわけて、外を見る。
部屋が面しているホテルの裏庭は、常夜灯のオレンジ色の光で満たされていた。
雨は今は降っていないようだ。
窓のすぐ下あたりの、壁沿いに目を走らせる。
地面まで、ずっとまっすぐになっていて、特に足がかりになりそうな突起などはないようだった。
どうやら飛び降りるしかなさそうだ。
ここは2階なので、直接窓からではなく、いちど下側の窓枠にぶらさがってから降りれば、それほどの高さを落ちることにはならないようにおもえたし、それよりもよい脱出方法はもう考えつかない。
私はロックをはずし、窓を押し上げた。
木製の枠はたてつけが悪くなっていて、半分くらいまで開きかけたところで引っかかってしまう。通り抜けるにはまだ狭かったので、もうすこし、とおもって力を加えると、開くには開いたものの、がたがたがた、と、ものすごい音がした。
廊下のほうで、人が動く気配がした。ドアの鍵を解錠しようとしているらしい、がちゃがちゃという金属音も聞こえる。
いそいで窓枠をまたぎ、外に体をすべらせる。
段階をおいて降りるために、枠の、壁からすこし飛び出した部分をつかもうとして、つかみそこね、私はそのまま、落下した。
気がつくと、私は裏庭の芝生の上に、あおむけに倒れていた。
部屋から脱出するのに使った窓のあたりに目をむけると、カーテンの上を懐中電灯の光らしきものが這いまわっているのが透けて見える。
地面に落ちたときの衝撃ですこし意識が飛んでいたものの、ほとんど時間は経っていないようだ。
その場から動こうとすると、背中側の右足のつけ根あたりに激痛が走った。それをこらえながら立ち上がり、そろそろと歩いてみる。やはり痛みは感じたけれども、骨が折れているわけではないようだった。
ならば、がまんすれば大丈夫、と自分に言い聞かせ、奥の塀ぎわに見えている木戸をめざして、裏庭を横切った。
木戸を開ける。その先はごみ捨て場だった。
ふたつならんだ鉄製の大きなごみ箱の間を抜けていくと、細い路地にぶつかった。
ホテルの表口が面しているタウン・スクエアの、ひとつ外側を通っている裏路地であるらしいが、どちらの方向に行けばいいのかがわからない。
けれども、ホテルの方角から叫ぶような声が聞こえてきたので、この場から動くのが先決だと考えて、左手側に伸びている道を選んで足を踏み出した。
結果からいうと、この選択は誤りだった。
左にゆるくカーブを描いている、石壁にはさまれた見通しのきかない路地を進んでいくと、明るく照らされた、幅広い通りが前方に見えてきた。
その道と私がいる路地との交差点あたりが、ざわざわと騒がしい。
壁際の暗がりに身をよせつつ、状況をうかがう。
私からみて右ななめ前にあたる角に立っている街灯の下に、人影がいくつか集まって、頭を突きあわせている。
その人影のうちいくつかは、「インスマスの外見」の持ち主だった。
そして、残りの数人は……。