Monsters v.s. Deep Ones: Deleted Scenes

最後に、ノリが合わなくて実際には使用しなかったシーン、NG (NG?) シーン、おふざけシーンなどを集めたカットシーン集をお送りします。ジャッキー・チェン映画のスタッフロールの裏で流れているようなものを想像しながら読んでいただけると、とても嬉しいです。

 文化祭の1日め。
 わたしが学食で売っているお弁当を買って、展示の番の担当を麗と交替しようと戻ってくると、県立高校の制服を着た男子生徒が、声にならない悲鳴をあげながら美術室の出入り口から飛び出してきて、わたしはあやうくぶつかりそうになった。
 道をあけると、なんだかよくわからないことをわめきつつ、廊下のむこうに走り去っていく。
「ちょっといい」
 背後からのきつい口調の呼びかけに振りむくと、すらりとした体形の、眼鏡をかけた長髪の上級生が、腰に手を当てて立っていた。首にかけたストラップを持ち上げて、先についた『文化祭実行委員会』と書かれたカードをわたしに示す。
「こちらの展示をみたらSAN値が下がった、という苦情が多数よせられているのですけれど、どういうことかしら」


*****


「ふつうに呼吸を続けて」
 水の振動を通じてハナの声が聞こえた。それから彼女は、わたしの鼻を片手でつまみ、ふたたび唇を重ねてきた。
 かすかに開いた彼女の口にあわせて私も口を開け、そこからゆっくりと空気を吸いこむ。
 視線をすこし下に向けると、ハナの首のつけ根あたりにできた細い切れ目が、呼吸をするのとおなじような周期で開閉している。
 彼女はわたしの脇の下に片腕をさし入れ、両足を軽く交互に動かしだした。
 頭の上に見えていた揺れ動く光が、速度をあげて近づいてくる。
 わたしは目を閉じて、ハナの体に身をゆだね……。
「ぶはっ」
 水面から顔を出したわたしは、おもいっきり深呼吸をした。
「だいたいさ……ハアハア……エラ呼吸をする生物だって……げほっ……酸素を吸って二酸化炭素を吐くわけ……ハアハア……だから、口移しで空気もらったって……ヒイヒイ……呼吸できるようになるわけがないじゃない……ごほごほっ」
「細かいツッコミを入れないの!」
 ぺこんっ、とニシちゃんが、わたしの額をメガホンで叩く。


*****


 左手の窓、木製の雨戸と、その中のサッシのガラスがつらぬかれ、そこからひょろ長い腕が突き出している。
 青緑色の細かい鱗におおわれた前腕部と、その先についた水かきのある骨ばった手が、つかむ場所を探すかのように宙を掻く。
 それを見て、杏莉とわたしは足がすくんでしまったのだけれど、ニシちゃんとハナは、そんなわたしたちを尻目に、するりと襖を引き開け、室内に入っていった。
 窓に近づくと、ハナが手にしていた棒状の物体をふりかぶり、腕にむかって思い切り、叩きつける。
 ぐき、とも、めき、ともつかない鈍い音とともに、雨戸のむこう側で、ぎゃああ、と叫ぶ声がして、あわてて腕が引っ込められた。
「それは?」
 ニシちゃんがハナに訊く。
バールのようなもの、かな。さっき倉庫で見つけた」


*****


 ニシちゃんは素早くレインスーツを着こみ、外に出る支度をした。
 ハナ、麗、わたしの3人も、それぞれに準備をととのえた。
「あ、そうだ」
 あれでもない、これでもない、と相談しながらスポーツバッグに持っていくものを詰め込んでいたハナとわたしの背後から、ニシちゃんの声がかかる。
「洞窟に入るんだったら、10フィートの棒も忘れずにね」
「10フィートの棒?」
「そう。それで床をつつきながら進むんだよ」


*****


「ニシちゃん、バスケットだ!」
 ハナが言った。いつのまに拾ったのか、ニシちゃんは別荘から砂浜に持っていったバスケットをちゃんと回収してきていた。
 彼女もハナの意図を察したようで、自分とハナのあいだに篭を置き、口を大きく広げる。
 ハナはその中から、なにかを2、3本一気に掴み出した。
 夕方まで下にいたときのことを考えて入れてあった花火……なんだけど。
「線香花火でどうしろと!?」


*****


 夜は離れのようになったところにあるお風呂で温泉に浸かった。
 渡り廊下のつきあたりの、すりガラスがはまった引き戸のむこうが、簡易な脱衣所になっていた。
 ハナが、その奥の、浴室につながるドアを開けると……。
 魚のような鱗におおわれた頭部と胴体。澄んだ大きな目。
 そんな外見の持ち主が4体、白木の浴槽に浸かって、手ぬぐいを頭にのせ、手足を伸ばしていた。
「あ、お先に失礼」
 その中でもひときわ体の大きな一体が、わたしたちのほうに手を振りながら、そう言った。 


*****


「温泉に入っているところ、そんなにあっさり流していいのかなあ」
 木でできた広い湯船に肩まで浸かりながら杏莉が言う。
 長い後ろ髪を頭の上でおだんごにしていて、ふだんとすこし雰囲気が違う。
「文章だけだと別に読者サービスにもならないし、いいんじゃないの」
 と、ニシちゃんが洗い場のところから答える。
「杏莉とニシちゃんだと、絵があったとしても読者サービスにはならないよね」
「ちょっ、ハナ、それはひどいよ」
「ど、どっちみち文章では見えないし、気にしてないもん」
「あ、それに、この作者のウデだったら、挿し絵があったとしても、どっちみちサービスにならないですよね」
 髪をすすぎ終えたニシちゃんは立ち上がり、湯船のほうへむかっていく。
 彼女の胸のふくらみは、ちいさめだけれどもきれいな形をしていて、なめらかで色白の肌は桜色に上気し、ぽっちりとした……。
「りいちゃんっ! 変なナレーション入れるなーっ」
 怒声とともに、湯桶が飛んでくる。


*****


 美術部室は、美術準備室の隣に設けられた風とおしの悪いちいさな部屋で、クーラーもなく、とても暑い。
 梅雨も明け、強い日射しが降り注ぐようになったここ1ヶ月ほどは、特にひどい。プールにでも入りたい気分には、たしかになる。
 でも。
「プールはやめようよ」
 まず反対したのはニシちゃんだった。
「えー、なんでですか」
「これ」
 杏莉が理由を察していないようなので、わたしは、ニシちゃんの校則どおりにきちんと膝あたりまでの長さにしているスカートをめくりあげ、彼女のふともものあたりを指し示した。
 全員の視線がそこに集中する。
 ニシちゃんの両足の付け根あたりには、ぐるりと一周、縫い目のように皮膚が引きつれている箇所があった。
 まだ生まれたばかりのころにうけた大手術の跡なのだそうで、ふだんは襟や袖で隠しているけれど、彼女の身体には他にも、首のまわりや両肩に同じような傷が残っている。
「りいちゃん! なにすんの!」
「大丈夫ですよ、パンツは見えなかったです」
「そういう問題じゃなくて!」
「今日はしましまか」
「もぉーっ。やっぱり見えてるし!」<おしまい>


これで、Monsters v.s. Deep Onesは終了です。長期間にわたるおつきあい、ありがとうございました。コメント、ついったーの@リプライ、Web拍手はてなスター、ブックマークなどくださったみなさまも、ありがとうございました。


次回は、

  • 中学時代のりいとニシちゃんが、蘇生死体の群れを率いて谷土中学校を占拠し、世界征服の拠点としようと企んだマッドサイエンティストと対決した話 "Monsters v.s. Monsters"
  • 瑠璃江島に突如襲来した外宇宙からの侵略者と、島を守ろうとする深みのものたちの間の戦いに5人が巻きこまれる "Deep Ones v.s. Aliens"
  • 5人の学校生活と日常を描いた『ダゴン様がみてる』

の、どれかを書こうとおもいます。(ウソです、ごめんなさい。)(いや、構想そのものはなくもないので、完全にウソではないのですが、ひとつの話にまとめるだけのアイデア、時間、エネルギーが足りなさそうなので、ちゃんとした形にはできないとおもいます。)



(第1回)
(これまでの更新分いちらん)


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