「第11次ミスカトニック大学南極遠征隊報告会」Twitter実況ログ

今朝Twitterで実況したものをまとめました。誤字、脱字、訳語の修正などを一部おこないましたが、あとはそのままです。


開始前

 告知したとおり、これから「第11次ミスカトニック大学南極遠征隊報告会」を実況します。

 いちおう開始時間なのだけど、まだ入ってくる人がいたりしてざわざわしている。壇上も、まだ最後の準備中という感じです。

 会場は、ロバート・カーター記念棟1階の大講義室。150人くらい入れる部屋です。7、8割がた埋まっているといったところ。

 前のステージには、演壇の横に長机があって、そこに5人座っている。

 プロジェクターと大きいスクリーンが用意されてます。


イントロダクション

 「おはようございます。私は当大学地学部のスティーブン・ローバックです。この報告会の司会をつとめさせていただきます。」演壇ではなく、舞台脇のマイクから。

 「私は遠征隊には直接参加せず、こちらに残ってバックアップ業務についていました。今日も似たような仕事です。」会場ちょっと笑い。

 「本日の報告会は、学内むけの簡単ものとなります。後日、学外も含めた一般むけの報告会がおこなわれる予定です。また、重要な発見については、遠征隊メンバーが個別の論文にとりまとめ、学会、研究誌などで報告することになっています。」

 会のおおまかな流れの説明。「はじめに、遠征隊を率いたムーア教授に、遠征の概要について話していただきます。つづいてクラーク教授、コックス教授から、より専門的な発見についての報告があります。」それぞれ、20分、30分、30分くらいとのこと。そのあと質疑応答。


遠征の概要 (ムーア教授)

 遠征隊隊長のムーア教授の紹介。「教授はミスカトニック大学地学部において長らく教鞭をとっており、数々の重要な論文を……」 受賞した賞や専門の内容を列挙した、いわゆる普通の教授紹介。

 ムーア教授演壇に。初老。白髪。「ムーアです。まず私のほうから、今回の南極遠征の概要、背景、目的などについて話させていただきます。」

 「ミスカトニック大学は、1930−31年に、他大学にさきがけて、南極遠征隊を送り出しました。その後、1932−33年にかけて第2次隊が派遣され、その後も、遠征隊を派遣する伝統はつづいています。」

 スライドに派遣の歴史。1960年代までは比較的頻繁に派遣されているが、そのあとは飛び飛び。前回は1999年で、今回は10年ぶりということになる。

 「今回の遠征の目的は、第1次隊、第2次隊が到達しながらも、その後フォーカスの変更と経費の節減によって調査が止まってしまった地域を再調査することにあります。」

 「この遠征の動機となったのは、第1次隊を率いたウィリアム・ダイヤー博士の残した記録集が、近年になって当大学の展示館の保管庫から一部発見されたことにあります。記録集の調査によって、博士の一行が重要な発見をしていた可能性が高まり、再調査の契機となりました。」

 「なお、今回の遠征は、アメリカ科学財団、ナサニエル・ダービー・ピックマン財団 (など) からの支援をうけて実現しました。」よくあるタイプの謝辞。

 「さて、第1次隊、第2次隊が主に調査したのは、この地域です。」スライドに衛星写真南極大陸の西海岸あたりがうつっている。比較的広い、灰色のエリアがある。雪が積もっていないということ。

 「南極大陸でも最高峰に近い高山が連なっている地域で、正式な国際的な名称は定まっていませんが、英語圏では『マッドネス山系』などと呼ばれています。」会場ちょっと失笑。「蜃気楼がよく観測されることに由来していると言われています。」と補足説明。

 「今回の遠征は、アメリカ合衆国マクマード基地を起点におこなわれました。この地点は、偶然にも、ダイヤー博士率いる第1次隊が上陸した地点と一致します。」

 「本隊は11月下旬に上陸しました。夏のはじめです。この時期の沿岸部の気温は、20Fから25Fくらい。(訳注: 摂氏マイナス5〜10度くらい)。ニューイングランドの冬を経験したことがあれば、寒いとは感じないでしょうね。」会場笑い。「もちろん、内陸、高地はそれよりも寒くなります。」

 「マクマード基地から輸送機の支援を得て、山系の西側にベースキャンプを設営しました。ベースキャンプ入りする人員は20人。機材は、雪上車5台、ヘリコプター2機、小型飛行機1機 (など)」

 「はじめに、クラーク博士率いる先遣隊が現地入りし、それから本隊が合流しました。これがベースキャンプの様子です。」スライドに写真。山の麓のテント、プレハブ村。つづいて山を見上げた写真も。頂上のほうには積雪がなく、灰色。

 スライドに、もっと山に寄った写真。城壁のような岩石形成と、ほぼ正方形に近い形の岩が写っているのがみえる。「これらは、この山系によくみられる岩石形成です。次のクラーク博士からくわしい説明がありますので、ここではこれ以上触れません。」

 (このへん、ちょっとおいつけてない。)

 「今回の遠征は、最後まで順調だったといえますが、本隊がベースキャンプに合流したあと、唯一といってもよい被害を受けました。本隊のベースキャンプ到着後数日、嵐がつづき、待機を強いられた。その間に、キャンプの外周部近くに駐車していた雪上車2台が破壊されてしまいました。」

 「おそらく、強風によるもの。1台は山の麓で発見されましたが、もう1台は行方不明のままです。取り戻すことができた1台も、部品がちぎれるなど、ダメージを受けていました。雪上車を格納していたあたりと、この発見された雪上車の周囲に、このような痕跡が多数発見されました。」

 スライド。5つ頂点のある星形のようなものが、雪の上に刻印されているようにみえる。「強風、また、強風で飛ばされてきたもののいたずらで、このような『足跡』が残るものと推察されます。学術的にさほど重要ではないかもしれませんが、興味深い発見でした。」

 「私の発表の最後に、現地で撮影した動画をご覧ください。」

 スクリーンに動画。ベースキャンプを遠めから撮影したもの。背景に山。天気は良いが、風が強いようで、風切り音や、風がマイクにあたる音がすごい。よく聞いていると、その合間に、音楽のように高低する、か細い音が聞こえる。笛の音色のよう。「山の地形効果でこのような音が発生するものとおもわれます。」

 これでムーア教授の報告終わり。


山系内部の岩石形成、洞穴について (クラーク教授)

 次にクラーク教授の紹介があって、彼が壇上に。おなじく地学の教授。40代後半くらい。

 「クラークです。ムーア先生の報告にありましたように (上のログからは抜けています。おいつけていなかった箇所。) 私とコックス博士が中心となって、山系内部の調査をおこないました。」

 「この山系は周囲を25000フィート級の高峰に囲まれていますが、それを越えたむこうがわには、海抜20000フィートほどの高さにある高原が広がっていると、今回発見された第1次隊の記録にはあります。」

 「ヘリコプターによる予備調査で、その記録の正確性は追認されました。嵐がおさまるのを待って、我々は、ヘリコプターで高地におりたちました。」

 スライドに写真。「その際に空中撮影したものです。まず周囲の高峰の山頂付近には、ムーア博士も言っていたように、城壁のような岩石形成、また、正方形に成形された岩石が頻繁にみうけられました。」

 「氷河の活動、風化などで説明ができるものと考えています。現在、コンピューターシミュレーションなどを用いて解析中です。次に、内側……」スライドに別の写真。氷の上に、ピラミッド型、タワー型の石がところどころ突き出している。

 「底は氷河 (氷床?) になっています。塔状の形成がいくつもみえるとおもいますが、同様の形成が、氷河内部に捕えられているのも確認されました。」地上 (氷の上) におりてから撮影した画像に切り替わる。氷の中に岩がいくつも閉じ込められているのがみえる。

 星のようなかたちに並んだ岩が写り、会場がすこしざわつくが、それに関しては言及なし。「これらの生成過程についても、現在解析中です。これらの岩石は、すべて非常に古いもので、始生代、前カンブリア紀のものが中心。」

 スライドに写真。黒い円筒形の塔のようになっている岩。「この岩の内部に空間が発見され、またさらに、その空間が、驚くべきことに、氷河の中までつづいていることが確認されました。」

 岩の中の空間にロープで降下していく様子の写真。空間の縁は、ほぼ真円になっているようにみえる。ところどころに突起や、窓のような開口部あり。

 最初から気になってはいたのだけど、発表者はちょっと落ち着かない感じ。視線がさまよったり、体を前後に揺らしたり。

 「内部は他の空間と複雑に連結しており、さらに、地下の洞穴につながっていた。」内部の写真が何枚か。だいたい、岩だったり、氷だったり、岩と氷だったり。

 スライドに、灯台のような形状をした塔の内部で撮ったらしい写真。窓っぽいものがあり、ドアらしきものまでみえる。ただ、同時に写っている人物と比較すると、ふつうの建物のドアよりも何倍も幅広くて高い。

 「このあたりは飛ばしましょう。」写真のあるスライドを何枚か早送り。だいたい岩肌が写った写真。1枚だけ、交通事故にあった車のような写真があったけれども、はやすぎてよくわからない。ミス?

 洞穴内で撮影した写真。ドーム型の部屋のようになっている場所で、中央に円柱形の太い柱。「これは素晴らしい眺めでしょう。」

 「この付近で、コックス博士の隊が生物学的に重要な発見をしたのですが、それは彼からの発表を待ちましょう。」コックス教授はこのつぎに報告することになっている。

 「私とスコッツデール君 (長机の端に座っている男性がそうらしい。たぶん大学院生。) は、分担して、この地点から分岐していく洞窟の調査をおこないました。地熱の影響か、場所によっては蒸気が激しく、また、独特の臭気があることも確認されました。」

 「まず調査を終えたスコッツデール君の隊から、洞窟の先はすべて崩落していて進むことができない、との報告。私の隊も、残る道の調査をおこなった結果、そこから先に進む道はないとの結論に達し、我々はここで引き返すことになりました。」

 会場からは、なーんだ、という感じのリアクションがぱらぱらと。「次に、コックス博士から、生物学的発見の報告があります。」

 クラーク教授の報告終わり。


生物学的発見について (コックス教授)

 次に紹介があって、コックス教授が壇上に。生物学の准教授。

 「クラーク博士が言及した重要な発見というのは、洞窟内に棲息する、このペンギンのことですな。」

 スライドに写真。真っ白な体をしているが、体型はたしかにペンギン。ただ、目がかたく閉じられているようにみえる。

 「これも、非常に興味深い発見ではあったのですが、それよりも先に、もうひとつの、より重要な発見について報告したい。」ずいぶんドラマチックなプレゼンテーションをする人だ。

 「まず、これをご覧ください。」スライドに別の写真。海藻だか触手だか。

 次のスライド。標本写真。5つの頂点のある星形。中央にちいさな穴。やや黄色がかった灰色をしていて、それぞれの頂点と、へこみになっている部分から、1本ずつ触手のようなものが生えている。

 「これが……」教授が話そうとしたとき、ガタンという大きな音。横の机に座っていたスコッツデールと呼ばれていた大学院生が、なにかを落としてしまったよう。

 彼が教授にふたことみこと言って、そのあと再開。「これは、山系の外側に口を開けている洞窟内部で発見されたものです。」

 「大規模な崩落箇所があり、その下からみつかりました。これは、生物の一部であると推察されます。」

 「今回の遠征の契機となった、第1次遠征隊の記録にも、部分的ながら、同一とおもわれる生物に関する記述がありました。」

 「それらの記載内容と今回発見されたものから、我々はコンピュータによる復元をおこないました。その結果がこちらです。」

 スライド。3Dのコンピュータグラフィックスのような感じ。胴体は縦に長く引っ張った樽のような形。上下に星形のものがついていて、そこからは細い触手が伸びている。色は灰色。

 突然叫び声があがる。壇上でスコッツデールが立ち上がっている。

 周囲の制止をふりきって、ステージ上を走りまわりはじめる。なにか叫んでもいる。

 ほとんど聞きとれないが、"I saw the snow car." とか、"I saw them." "They were there." とかいうフレーズがまじる。(訳注: "the snow car" は「雪上車」の意。)

 "The old ones." とか、「ショ、ショ、ショゴッ」という音にしか聞こえないようなことも言っている。

 壇上の人と近くの座席にいた人たちが取り押さえようとするけれども、それを逃れて、最後はステージから飛び降り、客席の真ん中の通路を走り抜けて、講義室の外に出ていってしまった。そのときには、また違った叫びをあげつづけていた。

 客席はざわつきがおさまらない。壇上も混乱。

 やっと落ち着いてきたけど、遠くで雄叫びのような声がして、またすこしざわつく。

 全体がやっと落ち着く。司会のローバック教授が、「失礼しました。報告内容はあとすこしですので、最後まで終わらせましょう。」

 コックス教授がふたたび演壇へ。消えていたスライドを再度表示させる。

 その直後、まだステージ上で音。今度は、自分の報告を終えて長机についていたクラーク教授が倒れている。

 まわりの人が介抱にかけよる。支えられて上半身を起こしたところをみると、口もとが動いていて、なにか呟いている様子。

 クラーク教授は両脇を抱えられてステージから下り、そのまま会場外に運び出されていく。壇上では司会の教授とほかの教授、アシスタントたちが集まって話をしている。

 ローバック教授がマイクのところへ。「申し訳ありませんが、本日の報告会はここで中断いたします。」


 講義室の外に運ばれていく途中、クラーク教授は私が座っていた席のすぐ横の通路を通った。そのとき、彼が漏らしていた呟きが聞こえた。
 
 クラーク教授の口は、スコッツデールが狂乱のまま会場から走り出していったときにわめきちらしていたのとまったくおなじ音を発していた。

 その音は、私にはこんなふうに聞こえた。「テケリ、リ。テケリ、リ」



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