11月15日、土曜日。

午後の1時過ぎ。
私はアーカムの中心街にあるインディペンデンス・スクエアから道路を一本へだてたところの建物の、せまい軒下に身をよせて、バスを待っていた。
朝から、小止みになったり、大降りになったりをくりかえしながら降りつづいている雨で、目のまえの歩道には水溜まりができている。そこにときおり、ちいさなさざ波が立つ。風も強くなってきているのだ。
ジャケットの前のジッパーをいちばん上まで閉めながら、もうすこし厚着をしてくればよかった、と私はおもっていた。
これから赴くインスマスは、海に面した町だ。このような天気の日には、アーカムよりもずいぶんと寒くなるにちがいない。


1時15分発、と鉄道駅の構内の案内所でみつけた時刻表に書かれていたインスマス行のバスは、5分ほど遅れてやってきた。30年以上昔に建造されたとおぼしきその車体には、白っぽい塗料を何度も塗り重ねたような跡があるだけで、バス会社の名前や行き先は表示されていない。歩道のがわにも標識などがあるわけではなく、そうと知らなければどこへ行くのかすらもわからないようなのに、バスが横付けされると、どこからともなく集まってきた男女が数人、乗りこんでいく。
私もリュックサックを背負いなおし、それにつづいて乗車した。
運転手は、頭髪の薄い男性だった。顔の左右方向にやや離れた具合になっている目と、低い鼻、ちいさな耳の持ち主で、つるりとした肌からは、いまいち年齢を読みとることができない。
インスマスまで、ひとり。往復で」
そう告げて、20ドル札を渡すと、ひと言も発せずに、私の手に古ぼけたトークンと、10ドル札を1枚と1ドル札を4枚を載せてよこした。
座席には先客が5人いて、それぞればらばらに座っており、私が自分の席を決めるために通路を抜けていくと、町の住民でない人間が乗車してくるのは、めずらしいことなのだろう、遠慮のない視線を私に向けてくる。
彼らの(女性もひとりいたが)外見にも、バスの運転手の顔の特徴と同じ傾向がはっきりとあらわれていた。
細長く、毛髪のすくない頭。平たい鼻。奇妙に離れた、ぎょろりとした目。
インスマスの外見」と呼ばれている特徴だ。



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