手紙

きのう(水曜日)、学校から帰ってくると、速達の郵便がとどいていた。


差出人をみてみると、件のミスカトニック大学を退官した教授。最近は手紙のやりとりが途絶えていたので、1ヶ月ぶりくらいに受けとる通信ということになる。


この教授といえば、非常に流麗な筆記体で手紙を綴ってくるのが常だった。ただ、前回送られてきたものは、本人の持病の発作が起きてしまったとかで、タイプライターで打たれていた。


そして、今回の手紙は、それらのどちらでもない筆跡で書かれていた。書体の流麗さは、(かすかには残っていたけれども)はるかかなたに押しやられ、一見しただけでは同一人物が書いたものとはおもえないほどに乱れていた。


その理由は、文面を読むにつれて明らかになった。非常に急いで書かれたものだったのだ。


『私はまさにいま、自宅の地下室から、決死のおもいで脱出してきたところだ。インスマスの外見をした魚人どもが、私をそこに閉じ込めたのだ。奴らの狙いがなにであるのか、私には特定することができない。しかし、非常に危険な状況であることに間違いはない。この手紙は、アーカムに住んでいる、信頼できる数人の人間にだけ出している。この手紙がつくころをみはからって、アーカム行きの電車に乗る。それまで、私が奴らから逃げのびることができたらの話だが。金曜日まで待てば十分な時間があるだろう。金曜日の正午過ぎにアーカムに着く電車に乗る。駅に来てほしい。あなたの助けが必要だ』


封筒をみると、投函されたのは月曜日。明日が金曜日だ。


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