手紙 その4

ふたたび、例の元ミスカトニック大学教授から封書が届いた。前回返信先として指定されていた私書箱が、差出人の住所として今回も書かれている。開いてみると、あいかわらずの達筆な筆記体が便箋を埋めている。


書状の内容は、だいたい次のようなものだった。

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先日は、説明不足の手紙を送って申し訳ない。手紙がきちんとあなたの元に届いているか、早急に確認したかったのだ。それには理由がある。どうやら、私があなたに送った2通目の手紙(私の過去の研究内容を詳細に記したもの)が、何者かによって回収されてしまったようなのだ。


そのことを、私は3通目の手紙(写真の不着を知らせるもの)を投函しにいったときに、郵便局員から聞いて知った。彼女の話によると、私が手紙を投函した数時間後、私の代理を名乗る者があらわれ、誤りがあったから、と、それを引き取っていったのだという。(私は断じてそのような者を郵便局に遣わしていない。)


そういうことがあったので、3通目の手紙は、誰がなんと言ってきても引き渡してはならない、と念を押して投函した。けれども、それでも不安が残ったので、後日、次の町の郵便局まで車で行き、私書箱を開設して、確認の手紙をあなたに送った、という次第なのだ。


これら一連のできごとから考えると、あなたの写真も、あるいはこれに関わっている何者かによって抜かれてしまったのかもしれない。私からの3通目の手紙は届いている、ということだったので、もしかすると、あなたは写真を再度投函してくれたのかもしれないが、私はまだそれを受け取っていない。今度から、私への通信を投函するときは、周囲の様子に気をつけてほしい。あるいは、普段利用しない郵便局から発送してほしい。

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ほかに、気になった部分の抜き書き。


「(郵便局員の証言によると)私の代理を名乗った者は、妙に細長い頭と平らな鼻、それに、奇妙に顔の両側に離れた、ぎょろりとした目の持ち主だったという。この表現は、私に典型的なインスマスの外見(the Innsmouth look)をおもいださせる」


「帰宅してから、私はあなたから受け取った1通目の手紙が入っていた封筒をくわしく調べてみた。それには、水に濡れたような染みがいくらかあり、あて先を記した文字にも、にじんでいる箇所があった。受け取った当初は、雨に濡れたせいだろうと気にかけていなかったのだが、顔を近づけたところ、これらの染みから、かすかな、けれども奇妙な臭気が発せられていることに気がついた。それは、腐敗した魚介類の臭いをおもわせるものだった」


「典型的なインスマスの外見」ってどういうことだろう? こういうのは、(元)ルームメイトに聞けばわかりそうな気はするけれども、彼女はもうここにはいない。