クリスマス中止のおしらせ
私は住み慣れた町を遠く遠く離れ、東の海に魅きよせられていた。
黄昏れの訪れとともに、波が岸辺の岩を打つ音が聞こえ、私は、海が、この先の丘の彼方に広がっていることを知った。
丘の上には柳の木が幾本も、雲が割れはじめた宵の空とまたたきはじめたばかりの星々にむかって、身をよじるように、ねじくれた幹を伸ばしている。
私は父なる者たちの呼ぶ声に導かれるまま、丘のむこうにあるという古い古い町に向かって歩を進めていた。
木々の隙間からアルデバランの輝きが覗いているあたりまでずっと登り坂になっている寂しい道には、新雪が浅く降り積もっていた。
これから私が行こうとしている町は、夢に幾度となく現れた。けれども、この目で実際に見たことは、まだ一度もなかった。
それは、ユールタイドの日のことだった。
人々は、この日を祝う習わしが、ベツレヘムよりも、バビロンよりも、古代の王都メンフィスよりも、さらには人類の誕生よりも古い起源をもつものであると知りながら、それをクリスマスなどと呼ぶ。
私はユールタイドに合わせて、その古から残る海辺の町を目指していたのだ。
私の先人たちが住み、かつて祝祭が禁じられていた時代にも祝祭を守りつづけたその地へ。
原初の昔から連綿と伝えられてきた大いなる秘密が忘れられてしまわないよう、百年に一度そこで祝祭を執り行なうようにと子らに命じたその地へ。*1
……そう、今年は百年に一度の祝祭が行われる年なのだ。クリスマスを祝ってなど、いられない。
*1:H.P. Lovecraft "The Festival," in S.T. Joshi (ed.) The Call of Cthulhu and Other Weird Stories. (Penguin Books 1999).