まじゅつしまじゅつしゅぎょうちゅう

「"She sells sea shells on the sea shore." はい」
「えっとっ、 "She shells she shells on the sea shore" ……」
「言えてない言えてない。もう一回」
「"She. Sells. Sea. Shells. On the sea. Shore"」
マサチューセッツ州セーラムの町の片すみにある一軒家に、早口言葉の練習をする甲高い声がひびいていた。どうして、そのようなことになっているのかというと――。


「魔術の修行と早口言葉に、どんな関係があるんですか」
練習に一所懸命になりすぎて紅潮したほっぺたをふくらまして、目のまえに立っている少女は私に文句を言う。
彼女は、1ヶ月ほどまえにこの家にやってきた。私の新しい内弟子だ。
かつて私に教えを授けてくれた魔術師のひとりが強く推薦していただけあって、近年まれにみる逸材。まだ12歳になったばかりだが、記憶力抜群、機転も効くし、炊事や掃除といった雑用もそつなくこなす。
ただ。
「呪文を唱えるときには、完全に正しい言葉を、完全に正しいタイミングで、完全に正しい発音で発さないと意味がない。これまでに何回も、言い間違えで魔法を失敗したろう。それをなくすための訓練だ」
私の説明に納得したのかどうか、彼女は渋々、といった表情で、同じ早口言葉のフレーズを口の中で何度が繰り返した。
そのあとで、はた、と手を打って、いいことをおもいついた、とばかりに私のほうに笑顔をむけてくる。
「先生。この早口言葉だったら、わたし、うまく言えるよ」
そう言って、彼女は唱えはじめる。
「ふんぐるい、むぐるぅなふ、く……」
まて、それは、早口言葉じゃないだろう。

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マサチューセッツ州で、魔術師、魔術修行中」という、ニシちゃんが考えたらしい早口言葉からおもいついた小話でした。私はちょう苦手です。早口言葉。