11月15日、土曜日。(その4)

チェックインの手続きを済ませると、レセプション・カウンターの無口な男は、鍵のうしろに客室番号の記された楕円形の板がぶらさがっている古風なルームキーを渡してくれた。
とりあえず部屋に入ることにして、ロビーの片隅から、がたがたがた、と不安にさせる音を立てつづけるエレベーターに乗って2階に上がる。
私にあてがわれたのは、廊下のいちばんつきあたりにある、建物の裏庭に面している部屋だった。
中は8畳くらいのメインの部分とバスルーム、というつくりで、建物が古いからでもあるのだろう、アメリカのホテルとしては広くない。壁の一面に背の高い上下開きの窓が2つあって、そこからは、建物のせまい裏庭を見下ろすことができた。窓のそばに、ひとりがけのソファーがひとつ。その近くの壁ぎわに、書きもの机と、巨大なキャビネットにおさめられた古くさいテレビ。そして、テレビの正面に、ひとり用のサイズのベッドが置かれている。
室内はひんやりとしていて、やや湿っぽくも感じたけれど、ベッドのリネンや、バスルームに用意されていたタオル類は清潔で、シャワーや洗面台の具合も、心配したほど悪くはなかった。


外はあいかわらず雨で、風も強くなってきているようだ。町を歩きまわるにはむかない天気だったし、たとえ天気がよかったとしても、この町にわざわざ見てまわるほどのものはあまりない。
私は部屋にとどまることに決めて、今日会うはずだった元教授に渡すつもりで作成してきた資料や写真に目を通しなおしたり、時間つぶし用に持ってきた本を読んだりしていたが、気分が乗らず、どちらにもすぐにあきてしまった。
しばらくベッドに腰かけてぼんやりとしてから、時計を見る。それでも、時刻はまだ5時前だった。



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