ロバート・カーター記念棟

午後11時30分。夜の帳が、アーカムの町を完全に覆いつくしたころ。


ミスカトニック大学キャンパス内、ロバート・カーター記念棟の1階の廊下では、高い天井にとりつけられた蛍光灯から落ちる白い光が、黒く塗られた床の上に静かに反射していた。片側にずらりとならぶ教授室や事務室の扉も、この時刻にはすべて閉ざされ、奥から明かりが漏れてきているようなこともない。通用口にむかって歩いている私の足音だけが、建物全体から返ってくるような、妙に空虚な反響をともなって響いている。


廊下の中ほどまで来たときだった。
ドン。ドン。
背後で突然、ドアを激しくノックしているような音がして、私はおもわず歩を止めた。
おそるおそるふりむいてみる。
だが、そこには弱々しい、白い光につつまれた廊下があるだけで、特に変わったことはみとめられない。
私は早歩きにきりかえて、その場をはなれようとする。
ドン、ドン。ガシャン。
ふたたび音が聞こた。
今度は顔だけを回して、うしろの様子をうかがってみる。
そして、私はその場で凍りついたようになってしまった。


私が立っている位置から、扉三つぶんほど隔てたところにある、教授室のドア。
その、上半分にはまっているガラスの部分を破って、腕が突出しているのだ。
腕は、人間のそれであるようにおもえた。
すくなくとも、形状の面では。
けれども、そこには、黄ばみかけた細い、白い布が、ぐるぐると巻きつけられているのだ。


私が動けないままでいると、腕はいちど引き込まれた。
そのあと、部屋の側から強い力が加えられたように、ドアが大きく歪んだ。
廊下の黒い床に、ガラスと木の破片が飛び散る。
そして、腕の主が、姿をあらわした......。

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この記事で書いた、バイオハザードサインの貼ってある部屋がこんなだったら怖すぎる、という話。学部の建物におそくまでひとりで残ってると、古くて入り組んでいる建物なので、それだけじゃなくても怖いのに。


でも、ミイラ男というのは厳密にいえば「バイオ」ハザードではないですかね。