隣室の、ルームメイトではない何か。

一週間ほどルームメイトを見ていない。
もっとも、それについては、とりたてて騒ぎたてるほどのことでもなかった。
生活パターンが違うのだ。彼女は朝、大学の図書館のアルバイトに出かけていき、夜は早くに自室に行ってしまう。私が深夜に近い時刻になって帰宅すると、彼女の部屋のドアはもう閉じられていることが多かったし、昼すぎになってようやく起きだすころには、彼女はもう家にいない。
けれども、顔をあわせることはなくても、壁ひとつをへだてただけの隣室に人がいるかどうかは、なんとなくわかる。私がドアを閉めて自分の部屋にいるときに、彼女が廊下を通ってバスルームに行ったりする物音が聞こえることもある。この一週間も、そのような状態だった。


しかし、今日は様子が異なっていたのだ。
私が昼すこし前に起きて、共用の居間に行きしなに彼女の部屋の前を通ると、彼女が室内にいないときはいつも開け放たれているはずのドアが閉じたままになっている。
もしかすると、今日はアルバイトに行っていないのかもしれない。体調を崩しているのかもしれない。そういえば、ここ数日は、私が帰ってきたときに、ドアは閉まっていたけれども、その下から明かりが漏れていた。先週、最後に彼女と会話したときには、必要だった本をやっと図書館から持ち出すことができた、と言っていた。それで、夜遅くまで勉強していたのだろうか。
寝ていたら申しわけないと思いつつも、ドアを軽くノックしてみる。返事はない。聞き耳をたててみても、中で人が動いている気配はしなかった。


学校に行かなければならなかったので、そのときはそのまま出かけた。授業が終わり、いつものようにカフェで勉強や読書をして、アパートに帰ってきたのは10時を過ぎたころだった。ルームメイトの部屋のドアは、ふだんと同じように閉じられていて、中で明かりがついていることもない。
けれども、前を通り抜けるとき、ドアのむこうから、音が聞こえた。本のページをめくるときの、紙が擦れあう音のようだった。
まだ起きてるのかな。昼間のことが気になってもいたので、私はふつうはとらない行動をとった。つまり、ドアをノックしたのである。返事はなかった。しかし、部屋の中からはまだ音がする。もうすこし強くノックしてみる。やはり、反応はない。
私はドアノブに手をかけて、扉を押した。
鍵はかかっていなかった。
部屋の電気は消されていたが、居間の明かりがさしこんで、中の様子を窺うことはできた。
戸口の正面にある勉強机に、いつもルームメイトがそこにいるときの姿勢と同じ姿勢で座っている人影があった。
だが、それは、彼女ではなかった。いや、人間の後姿というには、その形はあまりにも不自然でありすぎた……。

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前回書いた、ルームメイトの部屋ばなしの別パターンを考えてみました。以前のエントリでも書いたことがあるように、実際ルームメイトとは数日顔をあわせないこともあるんですが、これはさすがに創作です。まあ、実際にこんなことがあったら、呑気にブログを更新しているような暇はなさそうです。


そうそう、風邪はだいたいよくなりました。