祝祭

彼女に導かれるがままに、私は目を閉じて、その戸口をくぐった。そして、――これも、かねて彼女から言われていた通りに――ゆっくりとまぶたを開くと、私はひとりで、薄暗い部屋の中央部付近に立っていた。ついさっきまで私を先導してくれていたはずの彼女の姿は、いつのまにかなくなっている。


奥のほうで、ひそひそと囁きあうような声と、何かが蠢く気配がした。かと思うと、次の瞬間、それらの物音がしたあたりの暗がりに光が灯った。それは、いくつもの、ちいさな、橙色をした炎の集まりで、風は吹いていないはずなのに、ゆらゆらと奇妙に揺れうごいている。


その炎の群舞のうしろあたりから、声が発せられた。はじめはひとり。そこに次第に幾人かが唱和して、ひとつの音律にあわせ、ひとつの詞が織りあげられていく。


その調べとともに、楕円形に連なった炎は、ゆっくりと私のほうへ向かってくる。影のようにしか見えない人物が3体、そこへ付き従っている。


そして、隊列は、私の直前まできて静止した。


炎の一団と見えたものの正体は、30本ほどの蝋燭だった。蝋燭を支えているのは、銀の皿に載せられた、円形の物体。物体は柔らかく、その周囲は動物性の脂質を練ったもので塗り固められている。さらに、ところどころから、ちいさい、赤い塊が、切られたばかりなのだろう、瑞々しい断面をこちらに向けている……。