私が考えた「魔法少女防空戦隊」

 ふもとの牧場には放たれた羊たちが白い点々となって散っていた。それをやや下に見ながら、山すそのなだらかな傾斜に沿うように、ゆっくりと高度を上げる。しばらくすると、眼下に広がる色が、牧草のやわらかな緑から、針葉樹林の濃い緑に変化する。そのあたりから、しだいに角度が急になっていく山肌に合わせ、なおも上昇していくと、尾根の上に出る。そこで静止して反転し、いましがたやってきた方向に目をやると、石壁で囲われた街と、その中心付近にある、周囲の町家よりも申しわけていどに高くなっているだけの城の中郭が、初秋の午後の光の中に静かに佇んでいるのを見ることができた。街のむこう側は、淡い緑色の牧草地と、刈り入れが済んで茶色い地肌をあらわにした小麦畑が交互に地面を埋めており、そのさらに先で、湖の水面が光っている。湖の対岸には山が迫っていて、そこが王国の終わりだった。


 山に囲まれたちいさな盆地をおさめているだけの都市国家。この高度から見るこの国は、片方の手で覆ってしまうことができるほどの大きさしかない。やがて伸びてくるであろう帝国の魔の手は、ひとりの人間の片手のひらよりも、何倍も大きいのだろう。それからこの国を守りぬくことは、はたしてできるのだろうか。


 大陸の西側に覇権を誇る帝国が隣接するいくつかの国に侵攻をはじめたという報せは、瞬く間に東側の各国に伝わった。そしてその報せは、ほとんどがこの国とおなじような都市国家か、それらがいくつか合わさっただけの小国である東側諸国にとって、死の宣告と似たようなものであった。


 帝国とこの国は、いくつもの山や峡谷で隔てられている。それらを利用することによって、周辺の大国による侵入を幾度となく拒んできた歴史が、この地域にはあった。しかし、今回は話がちがう。近年帝国軍は、陸上戦力だけでなく、航空戦力を大幅に増強したと噂されていた。湖のむこうの峰を、自分がいま飛んでいる尾根を、帝国の航空部隊が次々に越えてくる光景を思い浮かべると、彼女の心は暗い展望に支配されるのだった。


 でも、と彼女は思う。私たちがあきらめてしまってはいけないのだ。この国の人々を守るのが、私たちの務めなのだから。


 よくない考えを追いやるように、彼女は強く頭を振った。それから箒の先端をななめ下に向け、勢いをつけて発進した。針葉樹林の木々の先端すれすれに、山の斜面に沿って飛ぶ。みるみるうちに速度が上がる。石を積み上げた牧場の仕切りや、草を食んでいる羊たちをかすめるようにすり抜けて、目の前に城壁が迫ったところで一気に箒の先端を引いて急上昇。城壁のはるか上空まで駆け登ったあと、宙返りを打ってから速度を緩め、彼女は城の中郭の隅に設けられた物見塔の屋上の、白い塗料で円が描かれた中にふわりと着地した。


 脚のあいだから抜いた箒を左肩に立てかけて、軽く首をかしげてそれをささえながら、彼女は両手にはめた手袋を外した。中に綿をつめ、外側を茶色い革で覆ったぶあつい手袋で、彼女が身につけている、膝くらいまで丈のある上着と、その下にはいているズボンも似たような材料でつくられている。それから彼女は、手袋を小脇にはさんで、襟元に巻いていた白いマフラーをゆるめ、顔の半分を隠していたゴーグルを両手で額のほうへずらした。ゴーグルには金属で縁どられた楕円形のガラスがはまっていて、黒っぽい革製のバンドがついている。そのゴーグルと一緒に、白い裏地の耳あてのついた茶色の帽子をとると、ほどけたうす茶色の長い髪が帽子の中からこぼれ、彼女の肩にはらはらと落ちかかるのだった。完全にあらわになった彼女の顔には、まだ幼さがかすかに残っている……。


こちら(魔法少女防空戦隊 - 偏読日記@はてな)の記事を読んで、そういえば私もこんな話を空想(妄想、かな)したことがあるなあ、と思い出したので、なんとなく書いてみました。

この話はこのあと、主人公(上の「彼女」。正義感にあふれているけど、若くて暴走しがち、とか)のほかに、

・小隊長。20代半ばくらい。男。万能型。
・「マッハ」というあだ名の隊員。男。飛ぶのが超速いけど打たれ弱い。お調子者。
・「ボマー」というあだ名の隊員。男。体格がよく、飛ぶのは遅いけど重装備可能。体育会系。
・強い感知の魔法の力を持った少女。12歳ぐらい。高高度早期警戒専門。


といったあたりを中心とした「箒乗り」たちが、帝国の航空部隊(こっちも「箒乗り」がメインで、編隊を組んで攻めてくる)を相手に、王国を守るために奮闘する、という感じに展開する、のかもしれません。


でも、私が考えたほうは、宮崎アニメをいくつか足して割ったような設定、内容っぽい。オリジナリティはありませんね。


(ついでに、カテゴリーをまた追加しました。以前の、私の空想や(主に)妄想について書いた記事も、このカテゴリーに移しておきます。読む意味があるかどうかは別として……)。